ある現場で起きた”想定内”の事故
「この工程、正直きついけど…なんとかなるだろう」
3年前、私が担当していた商業ビルの改修工事でのことです。元請からの強い要望で、本来40日必要な躯体補強工事を28日で組むことになりました。現場の職人さんも「頑張ります」と言ってくれた。でも結果は——
- 15日目に配筋ミスが発覚(確認不足)
- 22日目に作業員が脚立から転落(安全確認の省略)
- 最終的に工期は52日に延長
無理な工程で「時間を短縮」しようとした結果、むしろ30%も工期が延びてしまったのです。
はじめまして、たかしんです。
施工管理として15年以上、工程管理と安全管理を中心に現場を見てきました。
この記事では、若手施工管理が見落としがちな「無理な工程が引き起こす本当の問題」を、データと実例を交えて整理します。
目次
なぜ無理な工程は現場で受け入れられてしまうのか

無理な工程は、最初から「これは厳しい」と感じていることがほとんどです。それでも受け入れてしまう理由を整理してみましょう。
無理な工程が通ってしまう3つの構造
① 工期が先に決まっている
発注者の都合、イベント日程、次工事との兼ね合いなど、現場の実情より優先される事情があります。
② 組織内の力関係
上司・元請からの強い要望に対して、現場レベルでは反論しにくい構造があります。特に若手施工管理は、経験不足から判断に迷いやすく、声を上げにくい環境に置かれがちです。
③ 現場への配慮
「協力会社や職人さんに迷惑をかけたくない」という責任感が、逆に無理な受け入れにつながることがあります。
業界の実態
国土交通省の調査によると、建設業における工期の設定において「発注者の都合が優先される」ケースは全体の約6割に上ります。この構造的な問題が、無理な工程の温床となっています。
無理な工程を組んだ現場で必ず起きる5つのこと
ここからが本題です。無理な工程を組むと、以下の問題がほぼ確実に連鎖的に発生します。
起きること① 安全管理が崩れる(最も深刻)
具体的に何が起きるか
- KY(危険予知)活動が形骸化する
- 「急いでいるから」と安全手順を省略する
- 声かけ・指差し確認が疎かになる
- 危険作業の見逃しが増える
厚生労働省の労働災害統計によれば、建設業における死傷災害の約25%が「作業の切迫」を背景要因としています。無理な工程は、文字通り命に関わる問題です。
この関係は
「KY活動が形骸化する原因とは?」
「安全管理チェックリスト」
でも詳しく解説しています。
起きること② 作業効率が一気に落ちる
一見矛盾するようですが、工程を詰めるほど作業効率は落ちます。
なぜ効率が落ちるのか
- 段取り・準備時間が不足する
- 複数の作業が重なり、お互いに待ち時間が発生する
- 資材の配置・搬入のタイミングがずれる
- 「とりあえず始める」ことで手戻りが増える
私の経験では、標準工程より20%短縮した工程を組むと、実際の作業効率は30〜40%低下するケースが多く見られました。
これは
「工程遅れが起きそうな現場の危険サイン」にも直結します。
起きること③ ミス・手直しが増える
発生する品質問題
- 寸法確認・墨出しの不備
- 施工手順の飛ばし
- 仕上がりの粗さ
- 検査の形骸化
手直し工数は、当初想定していた「短縮できた時間」を簡単に上回ります。品質不良による手直しで工程が1週間遅れることも珍しくありません。
データで見る影響
一般的な建築工事において、手直し作業は全体工数の5〜8%程度とされていますが、無理な工程下ではこれが15〜20%まで跳ね上がるという調査結果があります。
起きること④ 現場の空気が悪くなる
現場で見られる変化
- イライラした雰囲気が蔓延する
- 職人同士の会話が減る
- 責任の押し付け合いが始まる
- 新規入場者への教育が疎かになる
現場の雰囲気が悪化すると、情報共有が滞り、小さなミスが見逃され、さらに工程が遅れる——という負のスパイラルに陥ります。
これは
「工程遅れが起きる現場の共通点」でも挙げた重要ポイントです。
起きること⑤ 結局、工程は守れない
ここが最も重要なポイントです。
無理な工程
↓
何か(安全・品質・人間関係)を犠牲にする
↓
犠牲にした部分からトラブルが発生
↓
トラブル対応で工程が遅れる
↓
当初の工程すら守れない
冒頭の実例のように、「28日で終わらせるつもりが52日かかった」というケースは決して珍しくありません。
「詰めれば守れる」はほぼ幻想です。
むしろ余裕のある工程の方が、結果的に予定通りか予定より早く完了することが多いのです。
若手施工管理が「無理な工程」を感じたときの正しい判断
無理だと感じたとき、一番やってはいけないのは黙って受け入れることです。
若手施工管理が取るべき3つのステップ
STEP1:無理な理由を言語化する
- 標準的な作業時間との比較(○○工事は通常○日必要)
- 必要な安全対策の時間
- 過去の類似工事での実績データ
感情論ではなく、事実とデータで説明することが重要です。
STEP2:影響範囲を整理する
- どの工程に影響が出るか
- どんなリスクがあるか(安全・品質・コスト)
- 最悪の場合、何が起きるか
STEP3:代替案を用意する
- 作業の優先順位を変える
- 応援を要請する
- 工期延長を交渉する
- 作業範囲を見直す
上司に「無理です」と伝えるだけでなく、「こうすれば可能です」という提案をセットにすることで、建設的な議論ができます。
重要な判断基準
迷ったときは、「この工程で安全が確保できるか」を第一に考えてください。労働安全衛生法では、施工管理者には労働者の安全を確保する法的義務があります。「上司の指示だから」は免責理由になりません。
👉 判断の基準は
「危険作業を止めるべきか迷ったときの判断基準」を
必ずセットで確認してください。
無理な工程を防ぐために朝一で見るべき5つのポイント

無理な工程の問題は、朝一の確認で多くが予防できます。
【チェックリスト】毎朝確認すべき項目
✅ ① 今日の作業量と人数が現実的にマッチしているか
- 作業員○名で○○㎡の施工は可能か
- 休憩時間・移動時間を考慮しているか
✅ ② 作業同士が干渉・重複していないか
- 同じエリアで複数の職種が作業していないか
- 資材搬入と作業が重なっていないか
✅ ③ 安全対策が省略されていないか
- 足場・手すりは適切に設置されているか
- 保護具の着用確認ができる体制か
- KYミーティングの時間が確保されているか
✅ ④ 天候・外的要因への対応策があるか
- 雨天時の代替作業は用意されているか
- 資材の納期遅れリスクは把握しているか
✅ ⑤ 前日の積み残し・課題が整理されているか
- 昨日のトラブルは解決しているか
- 手直し・再施工の必要性はないか
この5項目のうち、2つ以上に不安がある場合は、その日の工程は見直しが必要です。
👉 これらは
「工程管理チェックリスト」
「安全管理チェックリスト」
にすべて含まれています。
よくある質問(Q&A)
Q1:無理な工程を上司に指摘したら「甘い」と言われました。どう対応すべきですか?
まず、感情論ではなく「データと事実」で説明することが重要です。
具体的なアプローチ
- 必要作業時間の積算根拠を示す
- 安全確保に必要な時間を明示する
- 過去の類似工程での実績データを提示する
- 「この工程では安全が確保できません」と明確に伝える
それでも聞き入れられない場合は、以下の対応を検討してください。
- 記録を文書で残す(メール、報告書など)
- 安全管理部門や品質管理部門に相談する
- 必要に応じて、上位管理者や本社に報告する
重要: 事故が起きた場合、「上司の指示だった」は法的な免責理由になりません。施工管理者として、自分自身を守るためにも、不安な点は必ず記録に残してください。
Q2:現場の職人さんから「できる」と言われたら、無理な工程でも進めていいですか?
職人さんの「できる」は、多くの場合「何かを犠牲にすればできる」という意味です。
必ず確認すべき点
- ✅ 安全手順を省略していないか
- ✅ 休憩時間を削っていないか
- ✅ 品質基準を満たせるか
- ✅ 継続可能な作業ペースか
- ✅ 無理な残業や休日出勤を前提にしていないか
2024年4月から建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています。違反すれば罰則の対象となります。
施工管理の責任として、「できる」の中身を必ず確認し、リスクがあれば止める判断が必要です。職人さんの善意に甘えることは、結果的に職人さん自身を危険にさらすことになります。
Q3:工程を守れなかったとき、どのタイミングで報告すべきですか?
「遅れが確定する前に報告」することが鉄則です。
報告のタイミング
- 🔴 即座に報告:遅延が1日以上になる見込みの場合
- 🟡 速報:「遅れそう」と感じた時点で状況共有
- 🟢 定期報告:毎日の進捗報告で予兆を伝える
報告時に必ず含めるべき内容
- 現状(どこまで進んでいるか)
- 遅延の見込み(何日遅れそうか)
- 原因(なぜ遅れているか)
- 影響範囲(他の工程への影響)
- 代替案(どう対応するか)
報告が遅れるほど、リカバリーの選択肢が減り、関係者への影響も大きくなります。「怒られるから隠す」が最も悪い対応です。
Q4:人手不足で無理な工程を組まざるを得ない場合はどうすればいいですか?
人手不足は業界全体の構造的な問題です。だからこそ、工程側で調整するしかありません。
現実的な対応策
① 優先順位の明確化
- すべてを同時に進めようとしない
- クリティカルパス(工期に直結する作業)に集中する
- 二次的な作業は後回しにする
② 工期延長の交渉
- 発注者・元請に人員状況を説明する
- 現実的な工期を再提案する
- 必要に応じて、追加費用の交渉も行う
③ 外部リソースの活用
- 他の協力会社への依頼
- 派遣・人材サービスの活用
- 作業の一部外注化
④ 作業方法の見直し
- プレファブ化・ユニット化の検討
- 機械化できる部分はないか
- 作業手順の改善
無理に進めて事故や品質不良を起こす方が、最終的なコスト(金銭・信用・時間)ははるかに大きくなります。
Q5:「無理な工程」かどうかの判断基準がわかりません。どう見極めればいいですか?
以下のチェックポイントで客観的に判断してください。
【無理な工程の判断基準】
- ❌ 標準的な作業時間と比較して80%以下の工期
- ❌ 休憩時間・準備時間・片付け時間が確保できない
- ❌ 複数の作業が同時進行で互いに干渉する
- ❌ 安全手順の一部を省略しないと間に合わない
- ❌ 過去に同じような工程で事故やトラブルがあった
- ❌ 天候不良などのバッファ(予備日)が一切ない
- ❌ 職人さんや作業員から不安の声が上がっている
判断の目安
- ✅ 1つでも該当:要注意、慎重に検討
- ✅ 3つ以上該当:ほぼ確実に無理な工程
- ✅ 5つ以上該当:必ず見直しが必要
迷ったときは、「この工程で誰かが怪我をする可能性はないか」を自問してください。少しでも不安があれば、それは無理な工程です。
まとめ|無理な工程は現場の安全・品質・人間関係すべてを蝕む
最後に、この記事の重要ポイントをまとめます。
この記事で伝えたいこと
✅ 無理な工程は一時的に回っても、必ずどこかで破綻する
✅ 安全・品質・作業効率・人間関係——すべてに悪影響が出る
✅ 若手でも「止める判断」は必要であり、それが本当のプロフェッショナル
✅ 工程と安全は絶対に切り離せない
✅ データと事実で説明すれば、正しい判断は必ず理解される
たかしんからのメッセージ
施工管理の仕事は、工程を守ることではありません。
「安全に、確実に、品質を担保しながら完成させること」——これが私たちの本当の役割です。
無理な工程を止める勇気こそが、現場を守り、協力会社を守り、そして自分自身を守る最初の一歩になります。
無理な工程は「頑張れば何とかなる」ではなく、「何かが壊れる前兆」です。
明日の朝礼から、ぜひ一つでも実践してみてください。
参考資料・引用元
- 厚生労働省「労働災害統計」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei11/ - 中央労働災害防止協会「安全管理の手引き」
https://www.jisha.or.jp/ - 建設業労働災害防止協会「建設業安全衛生マニュアル」
https://www.kensaibou.or.jp/

