MENU

危険作業を止めるべきか迷ったときに、若手施工管理が判断するための基準

スポンサーリンク

「止める勇気」が現場と仲間を守る

現場で、こんな場面に出くわしたことはありませんか。

「ちょっと危ない気がする……でもベテランだし、大丈夫そう」

「止めて段取りが狂ったらどうしよう」

「自分の判断は正しいのか」

若手施工管理にとって、「危険作業を止める判断」ほど迷うものはありません。

はじめまして、たかしんです。
施工管理として15年以上、工程管理と安全管理を中心に現場を見てきました。
私自身、若手の頃は「止めすぎて嫌われたらどうしよう」と何度も悩み、実際に判断を迷って後悔した経験もあります。

この記事では、私の現場経験と労働安全衛生法の規定に基づいて、若手施工管理が自信を持って危険作業を止めるための判断基準と実践方法を解説します。

目次

若手施工管理が危険作業を止められない3つの理由

まず、なぜ止められないのか。その心理的障壁を整理しましょう。

理由① 自分の判断が正しいかわからない

  • 経験が浅く、何が本当に危険なのか確信が持てない
  • ベテラン職人の作業に口を出しづらい
  • 「これまで事故がなかった」という実績に反論できない

これは当たり前の感覚です。若手が迷うのは正常な反応であり、恥ずかしいことではありません。

理由② 工程が遅れるのが怖い

  • ただでさえ工程が厳しい状況で、さらに遅らせる責任を取りたくない
  • 止めた後の代替案をすぐに示せない
  • 上司から「工程優先」のプレッシャーを感じている

厚生労働省の調査によれば、建設業の労働災害の約30%が「工期の切迫」と関連しているとされています(令和4年労働災害発生状況より)。工程の逼迫が安全を脅かす構造的な問題であることは、データでも示されています。

理由③ 人間関係が悪化することへの不安

  • 職人さんとの関係が気まずくなる
  • 「使えない新人」と思われたくない
  • 現場の雰囲気を壊したくない

しかし、ここで重要な事実をお伝えします。

私の経験上、適切に作業を止めた結果、人間関係が長期的に悪化したケースは一度もありません。むしろ「安全を真剣に考えている」として、信頼関係が深まったケースが大半です。

【大原則】迷ったら止める。それが施工管理の責任です

すべての判断基準の前に、この原則だけは必ず覚えてください。

「迷ったら止める」

理由は極めてシンプルです。

止めて怒られる → 後で挽回できる
止めずに事故 → 取り返しがつかない

労働安全衛生法第25条では、事業者は「労働災害発生の急迫した危険があるときは、直ちに作業を中止し、労働者を作業場から退避させる等必要な措置を講じなければならない」と定められています。

若手施工管理であっても、危険を感じたら作業を止める権限と責任があるのです。

若手施工管理が使える「止める判断基準」5項目

では、具体的な判断基準を見ていきましょう。以下の5つの基準のいずれか1つでも該当すれば、作業を止めるべきです。

判断基準① 墜落・転落の危険がある(高さ2m以上)

労働安全衛生規則第518条により、高さ2m以上の場所で作業を行う場合は、作業床の設置や安全帯(墜落制止用器具)の使用が義務付けられています。

止めるべき状況

  • 手すりや安全ネットがない状態での高所作業
  • 足場板の隙間が広すぎる、固定が不十分
  • 脚立の天板に乗って作業している
  • 安全帯を使用していない

実例:私が2年目のとき
外部足場の解体作業で、職人さんが手すりを先に外してから足場板を撤去しようとしていました。「手すりがないと危険では?」と声をかけたところ、「いつもこうやってる」との返答。しかし作業手順を確認すると、手すりは最後に外す規定になっていました。作業を一時中断し、正しい手順で進めた結果、無事に完了。後日、その職人さんから「ちゃんと見てくれてありがとう」と声をかけられました。

判断基準② 重機との接触の危険がある

建設業における死亡災害の約15%が「建設機械等との接触」です(厚生労働省「令和4年労働災害発生状況」より)。

止めるべき状況

  • 重機の旋回範囲内に作業員がいる
  • 誘導員が配置されていない
  • バックホウの死角に人がいる
  • 合図が明確に決まっていない

重要ポイント:
重機作業では、オペレーターと地上作業員、誘導員の三者間で明確な合図のルールが必要です。このルールが曖昧な場合は、必ず作業前に確認してください。

判断基準③ 崩壊・倒壊の危険がある

止めるべき状況

  • 土留めの切梁や腹起こしが規定通りに設置されていない
  • 型枠支保工の取り外し順序が構造計算書と異なる
  • 重量物の仮置きが不安定
  • 掘削面の勾配が基準を超えている

実例:同僚の経験
型枠解体で支保工の撤去順序が逆になっているのを発見。作業を止めて構造計算書を確認したところ、そのまま進めていれば構造安全率を大きく下回る危険な状態だったことが判明しました。

判断基準④ 手順書や安全装置が省略されている

これは非常に重要な判断ポイントです。

止めるべき状況

  • 作業手順書で定められた安全装置が外されている
  • KY(危険予知)活動で確認した手順が守られていない
  • 「時間がないから」と養生や防護柵が省略されている
  • 有資格者が必要な作業を無資格者が行っている

建設業労働災害防止協会の調査では、災害の約40%が「定められた作業手順の不遵守」に起因しています。

KY活動が形骸化する原因とは?若手施工管理が安全管理で最初に直すべきこと
については、別の記事で詳しく解説しています。

判断基準⑤ 工程の無理が原因になっている

国土交通省の「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」でも、適正な工期設定の重要性が強調されています。

止めるべき状況

  • 「今日中に終わらせたい」という理由で安全確保の時間が削られている
  • 通常2日かかる作業を1日で終わらせようとしている
  • 複数の作業を同時並行で無理に進めている
  • 残業や休憩時間削減で疲労が蓄積している

重要な視点:
工程の逼迫は個人の問題ではなく、構造的な問題です。若手施工管理が一人で抱え込む必要はありません。上司や元請に早期に共有し、工程調整を依頼することが重要です。

工程遅れを取り戻す時に若手施工管理が絶対にやってはいけない3つのこと
については、別の記事で詳しく解説しています。

現場で使える「危険作業判断チェックリスト」

作業開始前に、このチェックリストを確認してください。スマートフォンにメモするか、手帳に書き写して現場に持参することをお勧めします。

□ 墜落・転落の可能性はないか?(高さ2m以上の作業)
□ 重機の旋回範囲や死角に人がいないか?
□ 作業手順書通りの安全装置・養生が設置されているか?
□ 工程の遅れを取り戻すための無理な作業になっていないか?
□ 「いつもと違う」という違和感はないか?

→ 1つでもチェックがついたら、作業開始前に必ず再確認

危険作業を止めるときの「伝え方」実践テクニック

判断ができても、伝え方を間違えると現場が荒れます。以下の4ステップで伝えましょう。

ステップ① 事実確認(命令ではなく質問)

悪い例:「ダメです。すぐに止めてください!」
良い例:「〇〇さん、今の作業、ちょっと確認させてもらえますか?」

まずは相手の状況と意図を理解する姿勢を示します。

ステップ② リスクの共有(相手を否定しない)

悪い例:「その作業は危険です」(作業者の判断を否定)
良い例:「この作業、もし○○が起きたら、△△の危険があると思うんです」

ポイント:

  • 「作業が悪い」ではなく「状況が危ない」にフォーカス
  • 相手の技術や経験を否定しない
  • 具体的なリスクシナリオを伝える

ステップ③ 代替案の提示(一緒に考える姿勢)

悪い例:「とにかく止めてください」(丸投げ)
良い例:「もし○○を追加すれば、安全に進められると思いますが、いかがでしょうか?」

可能であれば、その場で代替案を示します。すぐに思いつかない場合は、「ちょっと時間をください。一緒に安全な方法を考えさせてください」と正直に伝えましょう。

ステップ④ 記録を残す

「念のため、この判断を記録に残させてください」と伝え、以下を記録します。

  • 日時・場所・作業内容
  • 発見したリスク
  • 止めた理由
  • 対応策
  • 関係者の氏名

この記録は、後で「なぜ止めたのか」を説明する際の根拠になります。

実際に使えるトークスクリプト例

「○○さん、ちょっとよろしいですか。今の足場の手すり、
まだ固定されていないように見えるんですが、確認させて
もらえますか?

もしこの状態で体重がかかったら、手すりごと外れて転落
する危険があると思うんです。

ボルトをしっかり締めてから次の作業に進むのはいかが
でしょうか。5分ほどお時間いただけますか?」

ベテラン職人相手でも止めていいのか?

答えは明確に「YES」です。

ただし、ベテランの方々を否定するわけではありません。豊富な経験をお持ちのベテランだからこそ、以下の状況が発生することがあります。

経験が豊富だからこそ起こるリスク

慣れによる見落とし
過去に何度も問題なく完了した作業だからこそ、新しい条件変化(天候、材料の変更、作業環境の違い)に気づきにくくなることがあります。

手順の省略
「これまで大丈夫だったから」という経験則で、本来必要な安全手順を省略してしまうことがあります。

これは誰にでも起こりうる人間の心理であり、ベテランの能力を否定するものではありません。

実際の対応例

私が4年目のとき、30年のキャリアを持つ型枠大工の親方が、安全帯を使わずに3m の高さで作業を始めました。

私の対応

「親方、いつもお世話になっています。今日の作業、
安全パトロールが入る予定なんです。念のため安全帯を
着けていただけると助かります。何かあったとき、親方に
もご迷惑がかかってしまうので……」

親方は少し不満そうでしたが、安全帯を着用してくれました。作業終了後、「お前も現場のこと考えてるな」と声をかけてくれ、以降の関係は良好です。

  • 相手の経験を尊重する言葉遣い
  • 「あなたのため」というスタンスを明確に
  • 外部要因(パトロール等)を理由にして、個人攻撃にならないように工夫

危険作業を止めたあとに若手がやるべき5つのこと

止めて終わりではありません。事後対応が、あなたの信頼を決定づけます。

① なぜ止めたのかを整理する

  • どこが危なかったのか
  • どのような事故が想定されたのか
  • どうすれば安全にできるのか

これを記録し、次回のKY(危険予知)活動で共有します。

② 工程への影響を早めに共有する

報告先:

  • 直属の上司
  • 元請担当者
  • 関係協力業者

報告内容:

  • 作業を止めた事実と理由
  • 復旧にかかる時間の見積もり
  • 代替案や工程調整の提案

重要:早く共有するほど、工程調整の選択肢が増えます。隠して後で発覚する方が、はるかに問題です。

③ 上司や安全管理部門に相談する

一人で抱え込まず、組織として対応することが重要です。特に、以下の場合は必ず上司に報告してください。

  • 同じ危険が繰り返し発生している
  • 作業を止めても改善されない
  • 「工程優先」と指示されて判断に迷う

④ 写真や記録を残す

  • 危険な状態の写真
  • 改善前後の比較
  • 関係者とのやり取り(できれば文書で)

これは自分を守るためでもあり、今後の改善活動に活かすためでもあります。

⑤ ポジティブなフィードバックも忘れずに

作業を止めて無事に改善できたら、協力してくれた職人さんに必ずお礼を伝えましょう。

「ご協力ありがとうございました。おかげで安全に完了できました」

この一言が、次回以降の信頼関係を築きます。

安全管理ができる施工管理は「工程も守れる」

最後に、非常に重要な視点をお伝えします。

危険を見逃す現場、止められない現場は、最終的に工程も守れません。

なぜなら、安全管理がずさんな現場では以下のような問題が連鎖的に発生するからです。

  • 事故や災害で工事がストップ
  • 労働基準監督署の指導で改善命令
  • 職人の離職や手配困難
  • 会社の信頼低下で次の受注に影響

逆に、安全管理が徹底されている現場では、

  • リスクの早期発見で手戻りが少ない
  • 職人の定着率が高く、施工品質が安定
  • トラブルが少なく、工程の予測精度が高い
  • 発注者からの信頼が厚く、継続受注につながる

建設業労働災害防止協会の「ゼロ災運動」でも、安全は生産性向上の基盤と位置づけられています。

工程表が守れない本当の理由|若手施工管理が最初に直すべきこと
については、別の記事で詳しく解説しています。

若手施工管理が悩みやすい5つの質問に答えます

Q1. 作業を止めた後、職人さんに嫌われて現場の雰囲気が悪くなりませんか?

A: 確かに一時的に気まずくなることはあります。しかし、私の経験では、理由を丁寧に説明し、代替案を一緒に考える姿勢を示せば、むしろ信頼関係が深まります。

大切なのは「ダメ出し」ではなく「一緒に安全な方法を探す」スタンスです。また、事故が起きた場合、現場の雰囲気はそれ以上に悪化し、職人さん自身が最も後悔します。

私が止めた作業の中で、長期的に人間関係が悪化したケースは一度もありません。むしろ、「安全を真剣に考えている」として、後に重要な現場を任されるようになりました。

Q2. 上司から「工程優先」と言われている場合、どう対応すればいいですか?

A: これは非常に難しい状況ですが、労働安全衛生法では作業の安全確保が法的義務とされています。

対応手順

  1. 危険作業を写真やメモで記録
  2. 上司に「このリスクを共有した上で判断をお願いします」と報告(できれば文書で)
  3. 改善されない場合は、会社の安全管理部門に相談
  4. それでも改善されない場合は、労働基準監督署への相談も選択肢

重要なのは、工程遅れは取り戻せますが、命と健康は戻らないという事実です。また、事故が発生した場合、「工程優先」を指示した上司も法的責任を問われます。

Q3. 「これくらい大丈夫」と言われたとき、どこまで強く止めるべきですか?

A: 「命に関わる可能性」があれば、相手が誰であろうと絶対に止めるべきです。

判断基準は「もしこれで事故が起きたら、自分は後悔しないか?」です。

厚生労働省の「労働災害事例」を見ると、「これくらい大丈夫」という慣れが原因の事故が非常に多いことがわかります。むしろ「これくらい」という感覚が最も危険です。

強く止める際は、感情ではなく事実とリスクを伝えましょう。

「この高さで転落したら致命傷です」
「この重量物が動いたら下敷きになります」
「労働安全衛生規則○条で義務付けられています」

Q4. 自分の判断が間違っていて、実は安全だった場合、信頼を失いませんか?

A: 安全管理では「過剰に慎重」であることは決してマイナスではありません。

むしろ「安全に敏感な施工管理」として評価されます。仮に判断が過剰だったとしても、「なぜそう判断したか」を論理的に説明できれば、それは学習機会になります。

私も若手時代、過剰に止めて「大丈夫だったよ」と言われたことは何度もあります。しかし、「安全を真剣に考えている」と評価され、後に大規模現場のリーダーを任されました。

逆に、危険を見逃して事故が起きた場合の信頼損失は計り知れません。

Q5. 元請と下請の立場の違いがある場合、どう調整すればいいですか?

A: 立場に関係なく、安全管理は全員の共通責任です。労働安全衛生法上も、元請・下請の区別なく安全配慮義務があります。

立場別の伝え方:

元請として下請業者の作業を止める場合: 「協力をお願いします」という姿勢で、命令口調は避ける

下請として元請の指示に疑問がある場合: 「確認させてください」と質問形式で提起

どちらの立場でも有効な方法:

  • 会社間の正式ルート(安全協議会、定例会議)で問題提起
  • 第三者(安全管理者、労働基準監督署)の助言を仰ぐ
  • 労働安全衛生法などの法的根拠を示す

現場で解決できない場合は、上層部を巻き込むことをちゅうちょしないでください。

まとめ|若手施工管理が持つべき5つの判断基準

最後に、この記事の要点をまとめます。

✅ 5つの判断基準

  1. 迷ったら止める(最優先の大原則)
  2. 命に関わる可能性があれば即止める(墜落・転落・重機接触・崩壊)
  3. 手順が守られていない作業は止める(安全装置の省略、無資格作業)
  4. 工程の無理は安全の無理(無理な短縮、疲労蓄積)
  5. ベテラン相手でも止める(経験と安全は別問題)

✅ 止めるときの4ステップ

  1. 事実確認(質問形式で状況を把握)
  2. リスク共有(具体的な危険シナリオを伝える)
  3. 代替案提示(一緒に解決策を考える)
  4. 記録(日時・理由・対応を文書化)

✅ 止めた後にやるべきこと

  1. なぜ止めたかを整理
  2. 工程への影響を早期共有
  3. 上司・安全部門に相談
  4. 写真や記録を残す
  5. 協力してくれた人にお礼

おわりに|明日の現場から実践してください

「迷ったら止める」。

この判断を迷いなくできるようになった時、あなたは本当の意味で現場を任せられる施工管理になっています。

明日の現場から、この記事の判断基準を手帳にメモして持ち歩いてみてください。いざという時、あなたと仲間の命を守る武器になるはずです。

私自身、15年以上の現場経験を通じて学んだ最も重要なことは、「危険作業を止められる施工管理は、現場を守れる施工管理だ」ということです。

あなたの勇気ある判断が、誰かの命を救い、現場全体の安全文化を作ります。

安全な現場づくり、心から応援しています。

参考文献・関連リンク

本記事は以下の法令・ガイドライン・統計データに基づいて作成しています。

  1. 労働安全衛生法
    https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000057
  2. 厚生労働省「建設業における安全衛生対策」
    https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/index.html
  3. 建設業労働災害防止協会(建災防)
    https://www.kensaibou.or.jp/
  4. 国土交通省「建設工事における適正な工期設定等のためのガイドライン」
    https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/totikensangyo_const_tk2_000100.html
  5. 厚生労働省「労働災害事例」
    https://anzeninfo.mhlw.go.jp/

【注意事項】
この記事は、たかしんの現場経験と一般的な法令・ガイドラインに基づく個人的見解です。具体的な安全管理の方法は、各現場の状況、適用される法令、会社の安全管理規定によって異なります。実際の判断は、所属組織の規定と上司の指示に従ってください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

プロフィール:
はじめまして、たかしんです。
施工管理として15年以上、工程管理・安全管理を中心に現場を見てきました。
このサイトでは、若手施工管理が現場で詰まらないための「実務の判断基準」を発信しています。