「世界で一番歯が多い生き物は何?」この質問に対する答えは、多くの人にとって意外なものです。サメやワニなどの肉食動物を想像する方が多いかもしれませんが、実は私たちの身近にいるカタツムリが世界一の多歯動物なのです。
目次
カタツムリが持つ「歯舌」とは何か

歯舌の基本構造
歯舌(しぜつ)は、軟体動物の多くが口の中に持つ硬い舌のような器官で、やすり状になっていて食物を削り取って食べるのに使う特殊な摂餌器官です。カタツムリの「歯」は、私たち哺乳類の歯とは根本的に構造が異なります。
驚異的な歯の数
カタツムリの歯舌は1列80本並んだ歯が150列(全部で12,000本)も存在します。種類によって多少の違いはありますが、約1万本以上の歯を持つことが一般的です。
各動物の歯の数比較表
- カタツムリ:約12,000本(歯舌)
- サメ:生涯で約20,000本(順次生え替わり)
- 人間:乳歯20本、永久歯最大32本
- 象:生涯で24本(6回生え替わり)
カタツムリの食生活と歯舌の機能

やすり状の構造による摂餌
カタツムリにキュウリなど与えると、しゃりしゃりといった音を立てて削り取るように食べる様子が観察できます。歯舌は大根おろし器のような働きをし、植物の繊維を効率よく削り取ります。
多様な食物への対応
カタツムリの歯舌は以下のような多様な食物に対応しています:
- 植物質:葉、茎、果実など
- 菌類:キノコ、腐敗した有機物
- 鉱物質:コンクリートや石灰岩(カルシウム摂取のため)
- 動物質:死んだ昆虫や他の軟体動物(種による)
歯舌の再生能力

継続的な再生システム
カタツムリの歯舌最大の特徴は、何度でもはえかわる再生能力です。常に使用される前方の歯が摩耗しても、後方から新しい歯が継続的に供給されるシステムが確立されています。
進化的優位性
この再生能力により、カタツムリは:
- 硬い食物を継続的に摂取可能
- 多様な環境での生存が可能
- 摂餌効率の維持が可能
他の軟体動物との比較
カタツムリ以外の軟体動物も歯舌を持ちます:
海洋軟体動物の例
- アワビ:海藻を削り取る特殊な歯舌
- サザエ:岩に付着した海藻類を摂取
- イカ・タコ:獲物を捕らえるためのくちばし状構造




現在の研究と将来への応用
学術研究の現状
軟体動物の歯舌に関する研究は、京都大学白浜水族館をはじめとする各研究機関で継続されています。特に歯舌の微細構造と再生メカニズムは、生物学的研究の重要な対象となっています。
医学・工学への応用可能性
カタツムリの歯舌研究は以下の分野での応用が期待されています:
- 再生医療:歯や骨の再生メカニズムの解明
- 材料工学:生体模倣による新素材開発
- ロボット工学:効率的な摂餌システムの応用
よくある質問(Q&A)
Q1: カタツムリの歯は本当に「歯」なのですか? A: 厳密には「歯舌(しぜつ)」と呼ばれる摂餌器官で、人間の歯とは構造が異なります。舌の上にやすり状の小さな歯が並んだもので、食物を削り取る機能を持っています。
Q2: なぜカタツムリにそんなに多くの歯が必要なのですか? A: カタツムリは植物の繊維やコンクリートなど硬いものを削り取って食べるため、多数の小さな歯が必要です。また、常に摩耗するため予備の歯が大量に用意されています。
Q3: カタツムリの歯の数は種類によって違うのですか? A: はい、種類によって歯の数や配列は大きく異なります。一般的に1万本以上とされていますが、種によっては数万本に達することもあります。
Q4: カタツムリ以外で歯が多い生き物はいますか? A: 同じ軟体動物のアワビやサザエなども歯舌を持ち、多数の歯があります。また、サメも生涯で2万本以上の歯を使いますが、これは順次生え替わる歯の総数です。
Q5: カタツムリの歯の再生能力は医学に応用できるのですか? A: 現在、カタツムリの歯舌の再生メカニズムは研究対象となっており、将来的に再生医療への応用が期待されています。
まとめ
世界で一番歯が多い生き物であるカタツムリの歯舌は、単に数が多いだけでなく、継続的な再生能力と多様な食物への対応力を併せ持つ、生物界でも稀有な摂餌システムです。身近な生き物であるカタツムリが持つこの驚異的な構造は、自然界の進化の奥深さと、生物の環境適応能力の素晴らしさを物語っています。
次回雨上がりにカタツムリを見かけた際は、その小さな口に隠された1万本を超える歯舌に思いを馳せてみてください。私たちの身の回りには、まだまだ知られざる自然の驚異が数多く存在しているのです。
参考文献・情報源
- Wikipedia「歯舌」: https://ja.wikipedia.org/wiki/歯舌
- 碧南海浜水族館/碧南市