真夏の暑さの中で感じる突然の頭痛。それは単なる体調不良ではなく、熱中症のサインの可能性があります。「いつもの頭痛だろう」と市販の頭痛薬を服用する前に、少し立ち止まって考えてみてください。実は、熱中症による頭痛の場合、適切でない対処法を取ると症状が改善しないだけでなく、体に負担をかけることがあります。
この記事では、厚生労働省の最新ガイドラインや医学的根拠に基づき、熱中症で頭痛が起こるメカニズムから正しい対処法まで、分かりやすく解説します。
目次
熱中症とは?基本知識を確認しよう

熱中症とは、高温多湿な環境下で、発汗による体温調節等が うまく働かなくなり、体内に熱がこもった状態をさします。 屋外だけでなく室内で何もしていないときでも発症し、場合によっては死亡することもあります。
熱中症の重症度と症状
熱中症の重症度とそれぞれの症状は、以下のとおりです:
軽度(Ⅰ度)
- めまい、立ちくらみ、筋肉痛
- 大量の発汗
- 意識障害なし
- 現場での応急処置で回復可能
中度(Ⅱ度)
- 頭痛、吐き気、嘔吐
- 倦怠感、虚脱感
- 集中力・判断力の低下
- 医療機関での受診が必要
重度(Ⅲ度)
- 意識障害、けいれん
- 高体温(40℃以上)
- 命にかかわる危険な状態
頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力や判断力の低下などが起こります。意識はありますが、場合によっては臓器障害を起こしていることもあります。判断を誤れば重症化して命の危険につながりうる状態です。
熱中症で頭痛が起こるメカニズム

熱中症によって体温が上昇すると、体内の水分や塩分のバランスが崩れ、体温の調節機能が働かなくなります。 これにより、頭痛が発生することがあります。
具体的には以下のプロセスで頭痛が発生します:
- 体温調節のための血管拡張:体は体温を下げようと皮膚の血管を広げ、血液を体表面に集める
- 脱水による血液量減少:大量の発汗により体内の水分が失われる
- 脳血流の低下:脳への血流が不十分になる
- 頭痛の発生:脳の酸素不足により頭痛が起こる
なぜ熱中症の頭痛に薬は推奨されないのか?

1. 根本的な原因が異なるため
一般的な頭痛薬(解熱鎮痛薬)は、炎症による痛みを抑えることで効果を発揮します。しかし、熱中症による頭痛は炎症ではなく脱水による血流不足が原因です。そのため、熱中症の場合に頭痛薬を飲んだとしても、一瞬は良くなるかもしれないが「根本的な治療になっていないので、また頭痛が起きてくる」のです。
2. 脱水時のNSAIDs服用リスク
暑い夏の脱水時の服用には注意が必要です。腎臓に負担がかかる「解熱鎮痛薬」と「脱水」というリスクが重なって急性腎障害に陥るおそれがあるとされています。
特に、ロキソニンやイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、脱水状態で服用すると腎臓への血流を更に減らし、腎機能に負担をかける可能性があります。
3. 医師の見解
「熱中症に効く薬はないと思った方がいいです」という医師の見解もあり、薬物療法よりも適切な応急処置が重要とされています。
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熱中症による頭痛の正しい対処法:4つのステップ
ステップ1:涼しい場所への移動

- エアコンの効いた室内や日陰に移動
- 直射日光を避ける
- 風通しの良い場所を選ぶ
ステップ2:体を冷やす

- 首、脇の下、太もものつけ根を冷やす
- 冷たいタオルを額に当てる
- 可能であれば霧吹きで体に水をかけ、うちわで風を送る
ステップ3:水分・塩分補給

- 経口補水液または薄い塩水を少しずつ飲む
- 一度に大量摂取せず、15-30分おきにコップ半分程度
- 吐き気がある場合は無理に飲まない
ステップ4:安静にする

- 足を少し高くして横になる
- 楽な姿勢を取る
- 症状の変化を観察する
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こんな症状は要注意!受診の目安
以下の症状がある場合は、すぐに医療機関を受診してください。
- 上記の対処をしても1時間程度で改善しない
- 頭痛が激しくなる
- 吐き気・嘔吐が続く
- 意識がもうろうとする
- 体温が39℃以上
- けいれんが起こる
夜や翌日に不調が出た場合も「今さら」と放置せず、早めの対応が重症化を防ぐポイントです。熱中症は時間差で症状が現れることもあるため、暑い環境にいた後は数日間体調の変化に注意が必要です。
風邪と熱中症の見分け方
熱中症と風邪の見分け方
熱中症と風邪は似た症状が出ることがありますが、発症の仕方や特徴に違いがあります。以下の表で、それぞれの症状を比較してみましょう。
症状 | 熱中症 | 風邪 |
---|---|---|
発症タイミング | 暑い環境の後に急に | 徐々に進行 |
発熱時の感覚 | 皮膚が熱く乾燥、寒気は少ない | 寒気を伴うことが多い |
その他症状 | 大量発汗 → 発汗停止 | のどの痛み、咳、鼻水 |
頭痛の特徴 | 脱水による血流不足 | 炎症による |
よくある質問(FAQ)
Q1: 熱中症の頭痛と普通の頭痛はどう見分けられますか?
A: 暑い環境下での活動後に急に発症し、発汗の異常や皮膚の熱感を伴う場合は熱中症を疑ってください。普通の頭痛は環境に関係なく起こり、寒気を伴うことが多いです。
Q2: 子どもや高齢者の熱中症対策で特に注意すべき点は?
A: 子どもは体温調節機能が未発達で、高齢者は喉の渇きを感じにくいため、周囲の大人が定期的な水分補給を促し、様子を観察することが重要です。
Q3: 熱中症後、いつから普通の生活に戻れますか?
A: 軽度なら1-2日、中等度以上なら1週間程度は激しい運動を避け、十分な休養を取ってください。症状が完全に消失してから徐々に活動レベルを上げましょう。
Q4: 予防のために普段から飲んでおくべき薬はありますか?
A: 予防薬はありません。こまめな水分・塩分補給と、暑い時間帯(午前10時〜午後4時)の外出を避けることが最も効果的な予防法です。
Q5: アセトアミノフェン系の薬なら安全ですか?
A: 「アセトアミノフェン」には腎機能障害や血圧低下の弊害は少ないとされていますが、それでも熱中症の根本的な治療にはならないため、まずは適切な応急処置を行うことが大切です。
熱中症予防のポイント
日常的な予防策
- こまめな水分補給(のどが渇く前に)
- 塩分も一緒に摂取(経口補水液がおすすめ)
- 暑い時間帯の外出を避ける
- 涼しい服装と帽子の着用
- エアコンの適切な使用
体調管理
- 十分な睡眠
- バランスの取れた食事
- 体調不良時の無理な外出を避ける
まとめ
熱中症による頭痛は、脱水によって脳の血流が低下することが主な原因です。そのため、安易に頭痛薬を服用するのではなく、まずは涼しい場所で体を休め、適切な水分・塩分補給を行うことが重要です。
特に、脱水状態でのNSAIDs系頭痛薬の服用は、腎臓に負担をかけるリスクがあります。適切な対処をしても症状が改善しない場合は、迷わず医療機関を受診しましょう。
症状を感じたら体温を下げ、水分や経口補水液を摂ることが重要とした。そのような処置をしても1時間程度様子を見て改善が見られず悪くなるようであれば、病院に行くことを勧めたという医師のアドバイスを参考に、早期の適切な対応を心がけましょう。
正しい知識を持って、安全に暑い季節を乗り切りましょう。
参考資料
- 厚生労働省 熱中症関連情報:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/nettyuu/
- 環境省 熱中症予防情報サイト:https://www.wbgt.env.go.jp/
- 日本救急医学会 熱中症診療ガイドライン2024