現場で感じる「伝わらない」もどかしさ
現場で仕事をしていると、
- ちょっとした一言で空気が悪くなる
- 正しいことを言ったはずなのに反発される
- いつの間にか関係がギクシャクしている
こんな経験はありませんか?
施工管理と職人の衝突は、珍しいことでも、誰かが悪いわけでもありません。それぞれの役割の違いから生まれる、現場特有のコミュニケーション課題です。
この記事を読めば、職人との不要な衝突を7割減らし、現場の雰囲気を保ちながら安全・品質を守る具体的な方法がわかります。
はじめまして、たかしんです。
施工管理として15年、工程管理・安全管理を中心に現場を担当し、
1級建築施工管理技士として多くの現場を見てきました。
私自身、駆け出しの頃は職人さんとの衝突を恐れて言うべきことを言えず、結果的に工程遅れや安全上のヒヤリハットを招いた経験があります。その反省から、「現場を壊さずに、必要なことを伝える」コミュニケーション術を15年かけて磨いてきました。
この記事では、実際の現場で起きた事例をもとに、施工管理が職人と衝突しやすい理由と、現場を壊さずに回避するための考え方・行動を整理します。
目次
施工管理と職人は、そもそも役割が違う

まず前提として、施工管理と職人は見ているものが違います。
職人
→ 目の前の作業・手順・仕上がりの品質に集中
施工管理
→ 工程全体・安全管理・品質管理・次工程との調整
どちらも現場に不可欠な視点であり、役割の違いによるものです。
👉 この視点の違いが、衝突の”種”になります。
国土交通省の「建設業の働き方改革に関する調査」によれば、建設業における若手技術者の離職理由の上位に「人間関係」が挙げられており、現場でのコミュニケーションは技術力と同等に重要な要素となっています。
施工管理が職人と衝突しやすい理由
衝突が起きる現場には、共通点があります。私が15年間で観察してきた中で、特に多いパターンを3つ紹介します。
理由① タイミングが悪い
作業に集中している最中に声をかけてしまう
- 手が止められない工程
- 段取りの真っ最中
- 複数人で連携作業中
👉 このタイミングでの指摘は、内容が正しくても反発されやすいです。
作業中の職人は、手と頭をフル稼働させており、外部からの情報を受け入れる余裕がない状態です。この時に指摘すると、内容ではなく「邪魔された」という感情が先に立ちます。
【実例】私の失敗談
新人時代、基礎工事で配筋作業中のベテラン職人に「この間隔、図面と5cm違いますよ」と声をかけたことがあります。職人さんは明らかに不機嫌になり、「今やってんだろ!後で言えよ!」と怒鳴られました。
後で冷静に考えれば、作業の区切りを待てば済んだこと。急ぎでもない指摘を、最悪のタイミングでしてしまったのです。
理由② 「正しさ」だけを伝えている
背景や理由を説明せず、結論だけを押し付けてしまう
- 「ルールだから」
- 「図面どおりだから」
- 「会社の方針だから」
👉 職人側からすると、背景が見えない指示になります。
経験豊富な職人ほど、「なぜそうする必要があるのか」という理由を重視します。理由のない指示は、自分の経験や判断を否定されたように感じるのです。
【NG例とOK例】
❌ NG例
「この塗装、もう一回やり直してください。仕様書に書いてあるので」
⭕ OK例
「この塗装なんですが、施主検査で指摘される可能性が高くて。手戻りを出したくないので、もう一度お願いできませんか? ○○さんの手間も増やしたくないんですが…」
違いは何か?
→ 「手戻りを出したくない」という目的を共有し、職人の負担への配慮も示している点です。
理由③ 感情が先に出てしまう
自分の焦りやプレッシャーが、言葉や態度に乗ってしまう
- 工程遅れへの焦り
- 上司からのプレッシャー
- 疲労によるイライラ
👉 感情が乗った瞬間、話は「仕事」から「対立」に変わります。
厚生労働省の労働安全衛生法でも、現場管理者には冷静な判断と適切な指示が求められていますが、人間である以上、感情的になることは誰にでもあります。
問題は、その感情を職人にぶつけてしまうことです。
【実例】感情的になって失敗したケース
工程が2日遅れていた現場で、鉄筋工事の職人さんに「もっと早くできないんですか!このままじゃ工程が間に合わないんですよ!」と強い口調で言ってしまったことがあります。
職人さんは黙って作業を続けましたが、その後の協力が明らかに消極的になり、結果的にさらに工程が遅れました。感情をぶつけた代償は、想像以上に大きかったのです。
衝突を避ける施工管理が必ず意識していること
衝突を避けられる施工管理は、特別な話術を使っているわけではありません。以下の3つのポイントを押さえているだけです。
① まず「目的」を共有する
指示の前に、なぜそれが必要なのかを伝える
- 安全に終わらせたい
- 手戻り(やり直し作業)を出したくない
- 工程を守りたい
- 次工程に迷惑をかけたくない
👉 目的を先に伝えるだけで、受け取られ方は大きく変わります。
【すぐ使えるフレーズ】
- 「安全パトロールで指摘されそうなので、今のうちに対策しませんか?」
- 「次の左官工事が控えているので、このタイミングで確認させてください」
- 「施主検査が厳しい現場なので、一緒に仕上げを確認させてもらえますか?」
② 正解ではなく「相談」にする
一方的な指示ではなく、職人の経験を尊重する聞き方をする
❌ 指示型
「こうしてください」
⭕ 相談型
「このやり方、どう思いますか?」
「○○さんの経験だと、こういう場合どうされます?」
👉 職人の経験を尊重する姿勢が、衝突を防ぎます。
特にベテラン職人は、自分の経験や技術に誇りを持っています。その経験を否定するのではなく、活かす形でコミュニケーションを取ることが重要です。
【実例】相談型で成功したケース
外壁タイル工事で、図面と実際の施工に若干の違いがありました。以前なら「図面通りにしてください」と言っていたところを、「この部分、図面と少し違うように見えるんですが、何か理由があったりしますか?」と尋ねました。
すると職人さんは「ああ、ここは下地の関係で、この方が仕上がりが綺麗になるんだよ。監督も了承済みだけど」と説明してくれました。一方的に指摘していたら、無用な衝突になっていたでしょう。
③ タイミングを選ぶ
言う内容より、言うタイミングが大事
ベストなタイミング
- 作業前の朝礼や打ち合わせ時
- 一区切りついた後の休憩前
- 1日の作業終了後
避けるべきタイミング
- 作業の真っ最中
- 複数人での連携作業中
- 昼休憩の直前(急ぎの用件以外)
👉 緊急の安全事項以外は、必ずタイミングを見計らってください。
衝突しそうになったときの具体的な回避行動
理論だけでなく、実務で使える形にまとめました。
① その場で言い返さない
反発を感じたら、その場で押し切らない
- 一度引く
- 「わかりました、また後で相談させてください」と伝える
- 時間を置いて、冷静になってから再度話す
👉 引くことは負けではありません。
現場は感情的になりやすい環境です。その場でやり合っても、良い結果にはなりません。一度引いて、お互いが冷静になる時間を作ることが、長期的には最も効果的です。
② 一対一で話す
人前で指摘しない
- 周りを巻き込まない
- 別の場所に移動して話す
- 他の職人がいない時間帯を選ぶ
👉 これだけで、感情的な衝突は激減します。
人前で指摘されると、誰でもメンツを潰されたように感じます。特にベテラン職人は、若手や他の業者の前で注意されることを非常に嫌がります。
緊急の安全事項で全体への注意が必要な場合は、「皆さんにお願いがあります」と全体への依頼という形にし、特定の個人を名指ししない配慮が必要です。
【実例】人前で注意して失敗したケース
新人時代、複数の職人がいる前でベテラン配管工の手順ミスを指摘したことがあります。その職人さんは表面上は「わかった」と言いましたが、その後1週間、必要最低限の会話しかしてくれなくなりました。
後日、先輩施工管理から「人前で年上を注意するな。後で二人きりの時に言え」と教わりました。
③ 「現場全体」を理由にする
個人のミスではなく、現場全体への影響として伝える
❌ 個人攻撃型
「あなたのミスで工程が遅れています」
⭕ 現場全体型
「この部分が今のままだと、次工程に影響が出てしまって。現場全体のために、確認させてください」
👉 対立の矢印を、人から現場へずらします。
衝突を恐れて何も言わないのは逆効果
ここは非常に重要なポイントです。
「衝突を避けたい」「空気を悪くしたくない」という思いから、言うべきことを言わずに黙ってしまう。
これは一見、優しさのように見えます。
でも実際は、もっと大きな問題を生みます。
- 危険の放置 → 労働災害の発生リスク
- 品質低下 → 手戻り作業の発生、工期遅延
- 工程遅れ → チーム全体への負担増加
厚生労働省の労働安全衛生法でも、現場管理者には「危険を予見し、適切な措置を講じる責任」が明記されています。黙ることは、その責任を放棄することになります。
結果的に、もっと大きな衝突や、取り返しのつかない事故につながるのです。
【実例】黙って後悔したケース
2年目の頃、足場の手すりが一部外れているのを見つけましたが、ベテラン鳶職人との関係を壊したくなくて指摘できませんでした。
その日の午後、別の職人がその場所でバランスを崩し、幸い軽傷で済みましたが、私の責任として上司から厳しく指導されました。「空気を壊したくない」という自分の保身が、誰かを危険に晒していたのです。
この経験から、私の中で一つの基準ができました。
「安全に関わることは、空気が悪くなっても必ず言う。その他は、タイミングと言い方を工夫する」
すぐに使える!現場コミュニケーションフレーズ集
指摘するとき
- 「○○さんのやり方、いつも勉強になります。その上で1点確認させてください」
- 「経験が浅いので教えてください。この部分、安全上どう対応すればよいでしょうか?」
- 「施主検査が厳しい現場なので、今のうちに一緒に確認させてもらえますか?」
感謝を伝えるとき
- 「昨日のアドバイス、本当に助かりました。ありがとうございます」
- 「○○さんの段取りの良さ、いつも見習いたいと思ってます」
相談するとき
- 「このやり方で進めようと思うんですが、○○さんの経験だとどうですか?」
- 「こういう状況なんですが、何かアドバイスいただけませんか?」
フォローするとき
- 「さっきは皆の前で失礼しました。改めて説明させてください」
- 「先日のご意見、参考になりました。あの後こういう風に対応しました」
若手施工管理が覚えておくべき人間関係の現実
全員と仲良くなる必要はない
- 一時的に空気が悪くなることはある
- でも、逃げない
- 仕事として誠実に向き合い続ける
👉 仕事として向き合えば、信頼は後からついてきます。
私自身、最初は険悪だった職人さんと、半年後には「お前の現場なら安心だ」と言われるようになった経験が何度もあります。
大切なのは、短期的な好感度ではなく、長期的な信頼関係です。
若手施工管理からよくある質問(Q&A)
Q1. どうしても言うことを聞かない職人にはどう対応すべきですか?
A. まず、その職人が「なぜ」聞かないのかを見極めることが重要です。過去に不当な扱いを受けた経験がある、やり方に強いこだわりがある、単純に説明が伝わっていない、など理由は様々です。
一対一で時間を取り、「困っていることがあれば教えてください」と相談ベースで話すことから始めてみてください。それでも安全や品質に関わる問題が解決しない場合は、上司や協力会社の責任者と連携する必要があります。
Q2. 衝突した後の関係修復はどうすればいいですか?
A. 翌日以降、普段通りに挨拶し、必要な業務連絡は通常通り行うことが基本です。無理に謝罪したり、過度に気を遣う必要はありません。
むしろ、次の機会に「先日のご意見、参考になりました」など、相手の知見を評価する言葉をかけることで、自然に関係は修復されていきます。仕事として向き合い続ける姿勢が、最も効果的な修復方法です。
Q3. 若手で経験が浅い場合、ベテラン職人に指摘する資格はないのでは?
A. 施工管理として現場に配置されている時点で、年齢や経験年数に関わらず「安全・品質・工程を管理する責任」があります。
ただし、伝え方は工夫が必要です。「経験が浅いので教えてください」という姿勢を持ちつつ、「安全上この点が気になるのですが、どう対応すればよいでしょうか?」と相談形式で伝えることで、対立ではなく協力の構図を作れます。
Q4. 衝突を避けすぎて現場をダメにしてしまった経験があります。どうバランスを取ればいいですか?
A. 「即座に危険につながること(安全)」と「後で調整可能なこと(軽微な手順の違い)」を区別することが第一歩です。
- 安全に関わること → 空気が悪くなっても必ず指摘する
- やり方の違い(結果が同じ) → まず見守る
この線引きを持つことで、メリハリのある対応ができるようになります。判断に迷ったら、上司に相談することも重要です。
Q5. 複数の職人がいる前で指摘しなければならない場合は?
A. 緊急の安全事項以外は、できるだけ避けるべきです。どうしても必要な場合は、「皆さんにお願いがあります」と全体への依頼という形にし、特定の個人を名指ししない配慮が必要です。
その後、該当する職人には個別に「さっきは皆の前で失礼しました。改めて説明させてください」とフォローを入れることで、関係悪化を防げます。
まとめ|衝突は避けるものではなく、管理するもの
最後にまとめです。
この記事の要点
- 施工管理と職人は役割が違う(どちらも現場に不可欠なプロフェッショナル)
- 衝突の原因は「正しさ」より「伝え方」と「タイミング」
- 目的を共有すれば、衝突の多くは防げる
- 黙るより、整理して伝える方が現場は守れる
- 安全に関わることは、空気が悪くなっても必ず言う
たかしんルール
衝突を避けるな。ただし、壊れない形で向き合え。
現場で本当に必要なのは、全員と仲良くすることではなく、安全と品質を守りながら、最後まで一緒に仕事ができる関係です。
明日からの現場で、一歩踏み出してみてください。
参考情報
国土交通省
厚生労働省
建設業労働災害防止協会

