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KY活動が形骸化する原因とは?若手施工管理が安全管理で最初に直すべきこと

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毎日KY活動はやっている。
書類も埋めている。
指差し呼称もしている。

それなのに、
ヒヤリハットは減らない。
「これ、意味あるのかな?」
そう感じたことはないでしょうか。

正直に言うと、若手の頃の私自身がそうでした。
形だけKYをやって、事故が起きてから「なぜ防げなかったのか」と後悔する。
そんな現場を何度も経験しています。

はじめまして、たかしんです。
施工管理として15年以上、延べ60現場以上で工程管理と安全管理を担当してきました。多様なプロジェクトで安全管理の最前線に立ってきた経験をもとに、この記事を書いています。

厚生労働省の「労働災害発生状況」によると、建設業は全産業の中で労働災害による死亡者数が最も多く、令和6年には232人もの尊い命が失われています。その多くは「予見可能だった事故」です。

この記事では、

  • KY活動が形骸化する本当の原因
  • 若手施工管理が安全管理で最初に直すべきこと
  • 明日から使える具体的な実践方法

を、実体験と業界データをもとにお伝えします。

目次

KY活動が形骸化するのは若手施工管理のせいではない

まず最初に、はっきりさせておきます。

KY活動が形骸化する原因は、若手施工管理のやる気や能力ではありません。

ただし、安全管理の最終責任は現場所長や安全管理者にあります。若手が一人で抱え込む必要はなく、組織として対応することが大前提です。その上で、若手だからこそできる「現場の危険への気づき」があるのです。

KYをやっても意味がないと感じる理由

若手が「KYって意味あるの?」と感じる現場には、共通点があります。

  • 毎日ほぼ同じ内容
  • とりあえずの指差し呼称
  • 書類を埋めることが目的になっている

こうなると、KYは「安全のための対話」ではなく「作業の一部」になります。

安全活動が「作業」になった瞬間に起きること

KYが作業になると、現場ではこんな状態になります。

  • 誰も本気で聞いていない
  • 危険ポイントが頭に残らない
  • 実際の作業と結びつかない

結果として、KYはやっているのに、危険は減らないという現象が起きます。

建設業労働災害防止協会の調査では、KY活動を形式的に実施している現場と、実質的な危険予知として機能させている現場では、ヒヤリハット報告件数に約3倍の差があることが報告されています。

KY活動が形骸化する現場に共通する3つの原因

原因① 危険ポイントが具体的でない

「足元注意」
「転倒注意」

この言葉、よく見かけますよね。
でも、これだけでは何にどう注意すればいいのかが分かりません。

  • どこで
  • 誰が
  • どんな動きをすると危ないのか

ここまで落とし込めていないKYは、実際の行動に結びつかないのです。

悪い例:
「本日の作業:型枠工事。危険ポイント:転倒注意。対策:足元注意」

良い例:
「本日の作業:3F型枠建込み。危険ポイント:東側階段付近で電気工事と動線交差(10:00-12:00)。対策:①誘導員配置、②作業エリアをカラーコーンで区分、③相互に合図確認」

原因② 作業手順と安全がつながっていない

KYが形骸化している現場ほど、

  • 工程管理は工程管理
  • 安全管理は安全管理

と、別物として扱われています。

でも現実は違います。

工程が無理な現場ほど、人は焦り、手順を飛ばし、安全確認を省きます。

工程に余裕がない→作業員が急ぐ→安全確認が疎かになる→事故リスクが高まる、という負のサイクルが生まれます。労働安全衛生法第28条の2では「危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)」が義務付けられており、工程計画の段階から安全リスクを織り込むことが求められています。

実際、私が経験した重大インシデントの8割以上は、工程遅延が発生している時期に集中していました。

関連記事:工程表が守られない本当の理由|若手施工管理が最初に直すべきこと

原因③ ベテラン任せ・声かけ不足

「あの人は慣れてるから大丈夫」
「今さら注意しづらい」

こうした空気がある現場では、危険があっても止まらなくなります。

ここで誤解してほしくないのは、ベテラン職人の経験は貴重な財産だということです。ただし、慣れによる「慣れ」や「思い込み」は誰にでも起こり得ます。

若手からの声かけは、ベテランへの批判ではなく、現場全体の安全を高めるための「相互確認」という文化として捉えることが大切です。

若手ほど、「自分が言っていいのか?」と迷ってしまいますが、その迷いが事故につながることもあります。

若手施工管理が最初に取り組むべき3つのこと

ここが一番大事なポイントです。

若手が最初に直すべきなのは、KYの「書き方」ではありません。

① 危険を見る「視点」を変える

KYを増やす必要はありません。
言葉を難しくする必要もありません。

必要なのは、「今日の作業で、何が一番危ないか」を見る視点です。

鉄道総合技術研究所の研究によると、指差呼称を行うことでエラー率が約6分の1に減少することが科学的に実証されています。ただし、これは「意味のある指差し呼称」を行った場合です。形だけの指差し呼称では効果は期待できません。

② 具体的な3つの危険ポイントを毎日チェック

私が若手に必ず伝えているのは、この3つです。

1. 人が交差する場所
→ 重機×人、他業種×他業種

2. 作業が重なる工程
→ 同時作業は事故リスクが一気に上がる

3. 無理な工程・無理な姿勢
→ 工程の無理は、安全の無理につながる

これをKYで具体的に言語化するだけで、KYの意味は大きく変わります。

【明日から使える】若手向けKYチェックシート

□ 今日、人と重機が交差する場所は?
□ 複数業種が同時作業する時間帯は?
□ 通常と違う作業・工程はあるか?
□ 天候・足場の状態に変化は?
□ 疲労が溜まっている作業員はいないか?
□ 使用する機材・足場に異常はないか?

このチェックシートを毎朝のKYミーティング前に確認するだけで、「今日特有のリスク」を見逃しにくくなります。

③ 止める判断基準を持つ

若手が一番迷うのが、「止めるべきか、様子を見るべきか」だと思います。

基準はシンプルです。

  • 迷ったら → 止める
  • 命や大ケガにつながる可能性があるなら → 即止める
  • 明らかな法令違反(手すりなし、安全帯未使用など)→ 即座に中止

止めて怒られるより、止めずに事故が起きる方が、100倍問題になります。

危険作業を止めるべきか迷ったときに、若手施工管理が判断するための基準
については、別の記事で詳しくまとめています。

ベテラン職人に声をかけるときの考え方

注意するときは、命令口調ではなく、共有を意識してください。

×「ルールだから守ってください」

○「この作業、ここが一番危ないと思っています。一緒に確認させてください」

理由を伝え、一緒に考える姿勢が、信頼につながります。

また、個人対個人の対立にしないことが重要です。危険作業を止めた場合は、必ず現場所長や安全管理者に報告し、組織として対応してもらいましょう。記録を残すことも忘れずに。

安全管理がうまくいく現場の共通点

私がこれまで見てきた「事故が少ない現場」には、明確な共通点があります。

工程と安全をセットで管理している

安全管理がうまい現場は、工程会議の中で必ず安全の話が出ます。

  • 無理な工程を組まない
  • 工程変更時に安全も見直す
  • リスクの高い工程には余裕を持たせる

工程と安全は、常にセットです。

国土交通省の「建設工事における安全対策」でも、工程計画段階からの安全配慮が推奨されています。事故が起きれば工事停止や行政処分で工程が大幅に遅れるため、「安全確保が結果的に工程遅延を防ぐ」という認識が重要です。

若手の声が通る現場

  • ヒヤリを拾う
  • 小さな指摘を流さない
  • 報告した若手を評価する

こうした現場では、事故の芽が早い段階で潰されます。

「ハインリッヒの法則」として知られるように、1件の重大事故の背景には29件の軽微な事故、そして300件のヒヤリハットがあると言われています。若手の「小さな違和感」を拾い上げる文化が、重大事故を防ぎます。

若手施工管理者からよくある5つの質問

Q1. KY活動は法律で義務付けられているのですか?

A: 労働安全衛生法では直接的な義務化はされていませんが、第28条の2で「危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)」が事業者に義務付けられています。KY活動はこのリスクアセスメントの実践手法の一つとして、多くの建設現場で標準化されています。また、元請事業者には協力会社を含めた安全管理義務があるため、実質的に必須の活動となっています。

Q2. 若手が危険作業を止めたときに、ベテラン職人や協力会社から反発されたらどう対応すればいいですか?

A: まず、現場所長や安全管理者に即座に報告し、組織として対応することが基本です。個人対個人の対立にしないことが重要です。また、止めた理由を「ルール違反」ではなく「具体的なリスク」として説明することで、理解を得やすくなります。

例:「この作業、足場と重機の距離が2m以内で、挟まれる可能性があると思います。一緒に安全な方法を考えさせてください」

記録を残すことも忘れずに。あなたの判断が後に正しかったと証明されることも多いです。

Q3. 毎日同じ作業が続く現場では、KYの内容がどうしても同じになります。それでも意味はあるのでしょうか?

A: 作業内容が同じでも「今日特有のリスク」は必ずあります。

  • 天候(雨後の足場、強風時の高所作業)
  • 作業員の体調・疲労度(週末前、連勤明け)
  • 周辺の他工事との干渉(新たに始まった工事)
  • 使用機材の状態(メンテナンス時期、消耗具合)

「昨日と何が違うか」に着目してKYを行うことで、形骸化を防げます。また、月1回程度で「重大災害を想定したシミュレーション型KY」を実施するのも効果的です。

Q4. 工程が厳しい現場で「安全第一」と言っても、実際には工期優先になりがちです。どうバランスを取ればいいですか?

A: 「安全と工程は対立するものではなく、安全確保が結果的に工程遅延を防ぐ」という認識が重要です。事故が起きれば工事停止や行政処分で工程が大幅に遅れます。

実際、死亡事故が発生すると、工事は数週間から数ヶ月停止することも珍しくありません。労働基準監督署の立ち入り調査、警察の現場検証、再発防止策の策定など、工程への影響は計り知れません。

工程会議で「この工程では○○の安全リスクが高まる」と事前に共有し、リスクを織り込んだ工程計画にすることが現実的な対策です。上司への提案時は「安全コストと事故発生時の損失コスト」を比較して示すと効果的です。

Q5. KYシートの記入が作業の負担になっています。もっと簡素化できませんか?

A: 書類のための書類になっている可能性があります。本来KYは「対話と気づき」が本質であり、記録は補助手段です。

  • デジタル化(タブレット入力、音声入力)
  • 定型部分のテンプレート化
  • 写真による記録(危険箇所の可視化)

で負担を減らせます。ただし簡素化しすぎると形骸化するため、「その日特有のリスク」だけは必ず具体的に記入するルールを設けるとよいでしょう。

中央労働災害防止協会が推奨する「4ラウンドKYT」なども参考にしながら、現場に合った方法を見つけていきましょう。

まとめ|若手施工管理が覚えておくべき安全管理の基準

  • KYが形骸化する原因は「やり方」ではなく「視点」
  • 若手が直すべきは、危険を見る視点・具体化・声かけ
  • 安全管理は工程管理とセットで考える
  • 迷ったら止める。止めて怒られるより、止めずに事故が起きる方が100倍問題

さらに詳しく:もし現場で遅れが出た場合は?「やってはいけない挽回策」を確認する

最後に、たかしんルールです。

KYは「書類作成」ではなく、チーム全員が無事に家族のもとへ帰るための、たった5分の命を守る対話です。

形だけのKYから、明日の安全を本気で守るKYへ。

その最初の一歩は、あなたの「今日、何が一番危ないか?」という問いかけから始まります。

参考資料・関連リンク

※本記事の統計データは2024年時点のものです。最新の情報は各機関の公式サイトをご確認ください。

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この記事を書いた人

プロフィール:
はじめまして、たかしんです。
施工管理として15年以上、工程管理・安全管理を中心に現場を見てきました。
このサイトでは、若手施工管理が現場で詰まらないための「実務の判断基準」を発信しています。