日本列島には、野生のクマが広く生息しています。近年、市街地への出没が増加し、人との距離が近づいていることから、クマの生態や生息地について正しく理解することが求められています。この記事では、日本におけるクマの生息地域の実態と、私たち人間がどのように向き合っていくべきかについて詳しく解説していきます。
目次
熊の生息地域 日本の現状と2種類のクマの特徴


日本には、主に「ヒグマ」と「ツキノワグマ」の2種類のクマが生息しています。環境省の調査によると、北海道の約55%の地域にヒグマが、本州の約45%の地域にツキノワグマが生息しており、日本の国土の半分の面積にはクマが生息していることになります。
ヒグマの生息地域と特徴
ヒグマは北海道のほぼ全域に生息する、日本最大の陸生哺乳類です。成獣の頭胴長は200〜230センチ、体重は150〜250キロにも達し、中には400キロを超える個体も記録されています。体毛は褐色から黒色まで多様で、肩の筋肉が盛り上がっているのが特徴的です。
ヒグマの運動能力は驚異的で、全力疾走では時速50〜60キロもの速度を出すことができます。これは車とほぼ同じ速度です。食性は雑食性で、春から初夏にかけてはフキやウドなどの植物の若葉を、夏には昆虫を、秋にはサルナシやヤマブドウなどの果実やドングリを食べています。
遺伝子解析により、日本のヒグマは道北-道央型、道東型、道南型の3つのグループに分けられ、それぞれ異なる年代と異なるルートを経て北海道にやってきたことが明らかになっています。
ツキノワグマの生息地域と特徴
ツキノワグマは本州と四国の33都道府県に生息しています。ヒグマと比較すると小型で、全長110〜140センチ、体重40〜120キロ程度です。最大の特徴は、胸に月の輪のような白い模様があることですが、この模様は個体によって異なり、模様がない個体も存在します。
走る速度は時速約40キロといわれ、ヒグマほどではありませんが、人間よりもはるかに速く走ることができます。食性は木の実や果実がメインの雑食性で、植物食性に偏った雑食性に適応しています。
ツキノワグマの分布は、ブナやミズナラに代表されるブナ科の落葉広葉樹林の分布と重なっています。東日本では生息している森林がおおむね連続していますが、西日本では森林開発や戦後に進められた拡大造林によって生息地が分断され、個体群が孤立しています。
特に下北半島、紀伊半島、東中国地方、西中国地方、四国の個体群は孤立しており、生息数が少ないことで知られています。九州に生息していたツキノワグマは絶滅した可能性が高く、四国の個体群も十数頭から数十頭と推定され、絶滅が心配されています。
クマの起源と日本への渡来
クマの系統は、約2000万年前に食肉類から分化したと推定されています。食肉類には発達した犬歯と鋭いかぎ爪がありますが、クマの祖先は植物を含めたさまざまな食物を食べる「雑食化」の道をたどりました。
日本のツキノワグマは、日本が大陸と地続きであった30〜50万年前の氷河期に、大陸から渡ってきたと考えられています。その後、日本列島が大陸から切り離され、ニホンツキノワグマとして遺伝的に独自の分化をしました。
ヒグマも同様にアジア大陸に起源を持ち、氷河期に陸続きだった時期に北海道へ渡ってきました。興味深いことに、ヒグマの化石は本州でも見つかっており、数万年前までは本州にも生息していたことがわかっています。しかし、氷河期が終わり地球が温暖になって本州の植生が変わると、ヒグマは絶滅し、ツキノワグマのみが生き残りました。
クマの食性と季節による変化
クマは雑食性ですが、植物を主食としています。ツキノワグマは冬眠から目覚める早春には、いろいろな植物の新芽や若葉、前年に落ちたブナ類の実やドングリなどを食べています。春から夏にかけては、その時々で花や実をつける植物、そしてアリやハチなどの昆虫を利用します。
秋はクマにとって最も大切な季節です。冬眠のために十分なエネルギーを貯めておかなければならないため、ブナ類の実やナラ類のドングリを大量に食べます。全国でこれまでにツキノワグマが利用したと記録されている樹木の果実は、90種類にも及びます。
このように多彩な植物を利用できることで、年によっていくつかの植物の実りが悪くても、他のものを食べられるため、植物の豊凶の影響をあまり受けずに済みます。
正直なところ、クマがこれほど多様な食物に適応していることに驚きました。私たちが思っている以上に、クマは森の環境と深く結びついた存在なのだと実感します。だからこそ、森林環境の変化がクマの生活に大きな影響を与えるのも当然といえるでしょう。
クマの行動圏の広さ
クマはお互いを排除する固定したなわばりをもたず、個々の行動圏が大きく重なり合います。ツキノワグマの行動圏は、オスで平均100平方キロ、メスで平均40平方キロといわれています。ブナの実やドングリが凶作の秋には、メスの行動範囲が100平方キロを超えることもあります。
ヒグマはさらに広い行動圏を持ち、オスの成獣が最も広い範囲を移動した年には、その面積は495平方キロにもなったことが報告されています。これは東京23区の面積(621平方キロ)に匹敵する広さです。
クマは高速道路や大きな国道を夜中にこっそりと移動することもわかっており、本来人間を極力避けて行動する動物であることが明らかになっています。
熊 生息地域 日本における減少の背景と共存への対策
クマの生息地が減少している背景には、人間の活動が大きく関わっています。主な原因は、食料不足、森林環境の変化、そして人間社会の変化の3つです。これらの要因が複雑に絡み合い、クマが人里へ出没する頻度が増加しているのが現状です。
食料不足と森林環境の変化
クマの主要な食料となる木の実が不足することが、生息地減少の大きな原因です。気候変動の影響でドングリなどの実りの周期が短くなり、凶作の頻度が増えています。食料が不足すると、クマは広範囲を移動し、食料を求めて人里に近づくようになります。
過去の森林開発、特に拡大造林政策によって、木材生産のためにスギやヒノキなどの針葉樹が大量に植えられました。これらの人工林は生物多様性に乏しく、クマの食料となる木の実が少ないため、「食べ物のない森」となっています。
さらに、国産材の価格低迷により、手入れが行き届かない人工林が増加しました。間伐などがされない人工林は暗く、下草も育ちにくいため、クマの食料源がさらに減少しています。
人間社会の変化とその影響
過疎化や高齢化といった人間社会の変化も、クマの生息地に影響を与えています。薪や炭の採取、山菜採りなどで利用されていた里山が、産業構造の変化や担い手不足により管理されなくなりました。これにより、人と野生動物の境界があいまいになり、クマが人里に侵入しやすくなっています。
過疎化が進む地域では耕作放棄地が増え、そこに生える藪がクマの隠れ場所となります。また、収穫されないカキやクリなどの果樹が、クマにとって魅力的な食料源となり、人里への誘引要因となっています。
中山間地域での人口減少や林業従事者の減少により、クマが人間を恐れる経験が減り、人への警戒心が薄れてきています。これにより、クマが人里に出没しやすくなっています。
メガソーラーと野生動物被害の関連
引用元:メガソーラービジネス plus : 日経BP
近年、メガソーラー事業と野生動物被害の関連について議論が高まっています。山林を切り開いて設置されるメガソーラーが野生動物の生息地を奪い、クマなどが人里に出没する原因の一つと指摘する声があります。
自然保護団体「日本熊森協会」は、メガソーラーの建設がクマ被害増加の一因となっていると指摘しています。一方で、クマの出没増加は里山の手入れ不足や農林業従事者の減少など、地方の衰退や管理の問題が根本にあるという意見もあり、メガソーラーだけが原因ではないとする見方も示されています。
この問題は非常に複雑だと感じます。再生可能エネルギーの必要性と自然環境の保全という、どちらも重要な課題をどう両立させるかが問われています。単純にメガソーラーを否定するのではなく、設置場所の選定や環境への配慮など、より慎重な対応が求められるのではないでしょうか。
誘引物を取り除き人里への出没を防ぐ
クマと人間が共存するためには、私たち人間がクマの生態を理解し、適切な対策を講じることが重要です。クマが人里に出てくる主な原因の一つは食べ物が不足していることなので、人里周辺にクマを誘引するものを置かないようにすることが大切です。
生ゴミや熟した柿、栗などはクマの大好物です。ゴミ収集場所を工夫したり、ゴミ出しのルールを守って放置しないようにしましょう。庭の栗や柿の木は早めに収穫するか、伐採を検討することも必要です。
クマはハチの幼虫や蜜も食べるため、住居周辺のハチの巣は除去しましょう。また、集落周辺のやぶや草を刈り払い、見通しを良くすることで、クマが人の存在に気づきやすくなり、近づきにくくなります。
山中での遭遇を避けるための対策
クマによる人身被害の多くは、クマとの不意な遭遇によって起こります。山に入る際は、クマと出会わないための工夫が必要です。
熊鈴やラジオなど、音の出るものを身につけ、人間の存在をクマに知らせましょう。クマはほとんどの場合、人間の存在に気づけば避けてくれます。単独行動は避け、複数人で行動することで、クマに気づかれやすくなります。
事前に自治体のウェブサイトやビジターセンターなどでクマの目撃情報を確認し、危険な場所には近づかないようにしましょう。クマの活動が活発になる朝夕や薄暗い時間帯の入山は避けることも重要です。
子グマを見つけても絶対に近づかないでください。近くには必ず母グマがいて、子グマを守るために攻撃的になる可能性が高いです。
クマに遭遇してしまった場合の対処法
万が一、クマに遭遇してしまった場合は、冷静に行動することが命を守る上で大切です。
クマがこちらに気づいていない場合は、静かに、ゆっくりとその場を立ち去りましょう。遠くにいる場合は、クマに気付かれないように、ゆっくりと静かに後退します。手持ちの道具を振り上げて、自分を大きく見せるのも有効です。
比較的近い場合(20〜50メートル)は、腕をゆっくり振り、人間の存在を知らせながら、目を離さずに静かに後退します。突進してきた場合は、落ち着いてクマとの間に障害物がくるようにゆっくり後退します。クマ撃退スプレーがあれば、目や鼻をめがけて噴射しましょう。
攻撃された場合は、両腕で顔や頭を守り、うつ伏せになって重大なダメージを避けます。
これらの対処法を知っているだけでも、いざという時の冷静さが違ってくるはずです。でも、何よりも大切なのは、クマと遭遇しないように事前に対策を取ることですね。
日本の国土の半分にクマが生息している以上、完全にクマを避けて生活することは不可能です。だからこそ、クマの生態を理解し、適切な距離を保ちながら共存していく知恵が必要なのだと思います。森林環境の保全や里山の管理、そして一人ひとりの意識が、クマとの共存を実現する鍵となるでしょう。
まとめ:熊 生息地域 日本の現状と私たちができること
今回の記事では、日本に生息するヒグマとツキノワグマの生態、彼らの生息地域が抱える問題、そして人里出没の背景にある食料不足や森林環境の変化について深く掘り下げてきました。
クマの行動圏は広く、人間社会の変化(過疎化や管理放棄)が彼らの生活を直撃しています。大切なのは、「誘引物をなくす」「音を出す」といった基本的な対策を徹底し、彼らの生態を理解すること。さらに、メガソーラー問題のように、現代の開発と自然保護のバランスをどう取るかという大きなテーマも見えてきました。
熊 生息地域 日本の現状を知ることは、私たち自身の安全を守り、野生動物と持続可能な未来を築くための信頼性ある第一歩です。専門的な知見に基づき、日々の行動を見直していきましょう!


